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富士の晴れ姿 (文晁)

富岳三保淸曉図 谷文晁 筆  絹本彩色  88x54.509013
富士の晴れ姿 (文晁)_e0259194_18324692.jpg


三保の松原の辺りから見た富士山の細密画です。寛政9年3月と書かれていますので、グレゴリオ暦に換算すると1797年4月で、春頃になります。落款は、富士を特に好んで描いた谷文晁(1763-1841)で、真筆だとは思いますが、だとしても今日では誰も客観的な立証は出来ません。

この三保の松原辺りから富士を臨む景観は、古くから多くの一流絵師たちが挑戦して、富士が最も美しく見える場所と言われて来たので、『世界遺産』として富士とセットで登録されたことにも納得出来ます。(※1)

今では全く見なくなりましたが、当時の江戸近郊の沿岸では、製塩が盛んで、この画の様に「塩田(揚浜式?)」が至る所にあったようです。
富士の晴れ姿 (文晁)_e0259194_17231916.jpg

万が一江戸が攻められて、塩の供給が止められても、自給自足が出来るようにか、江戸の近郊でも積極的に製塩が行われていたのです。
(現代の日本でも、レアアース・石油・食品等に対する危機管理意識はこれを見習うべきかも知れませんね)

また、画の左端に僅かに描かれている寺社らしき施設は、徳川家康も人質であった若い頃に修行をした、由緒のある清見寺の様(今はこの山門と本堂との間を東海道本線が横切っています)で、桜が咲いているようです。


この辺りはその昔、雪舟(1420~1506?年)も訪れて富士を描いたのだ様です。(原画は残ってませんが、室町時代に写された模本が「永青文庫」には現存するそうです)
富士の晴れ姿 (文晁)_e0259194_17272781.jpg


下の松林の中には、天女伝説で有名な「羽衣の松」(の二代目?現在の樹齢だと650年?;初代の松は1707年の富士山噴火の際に海中に没したとか)があったはずで、近くにあるはずの御穂神社(「羽衣の切れ端」が安置されていると言われる)らしき施設は描かれていますので、特定は出来ませんが、その辺りのどれかなのでしょう。
富士の晴れ姿 (文晁)_e0259194_3331150.jpg



この絵では現実の絵師の視点よりも、高い位置から俯瞰した様に描かれています。更に、遠くの物でも必ずしも遠近法に従わない大きさで描かれていること、富士山の勾配(※2)が実物よりもかなり急になっていることなど、写真的な正確さよりも画としての見応えを優先した表現になっていることに気付きます。
今と違って、誰しもが気楽に観光を楽しめなかった時代でしたので、そんなデフォルメや誇張こそが江戸の画の面白さ・楽しさとして要求された遊び心だったのかも知れません。そして、富士と海とを一つの画面に納める理想的な構図(※3)が、古く万葉集の 「田子の浦ゆ うち出でてみれば 真白にそ 富士の高嶺に 雪は降りける 」 (山部赤人)にも登場する題として「日本人の心象風景」と言われるまでになったのかも知れません。








※1 ユネスコの世界遺産委員会で、2013年6月22日に富士山(三保の松原を含めて)を世界文化遺産に登録されることが決定されました。 (めでたし!されど昔の景観はすでに・・・・ )

※2 富士山頂付近の最大傾斜部を延長して出来る頂角は、実物の写真では約120度、この画の場合で約80度(室町時代の雪舟の模写の場合でも約100度)ですので、画ではかなり誇張されています。 (それが理想形に近いのか?見応えは増します)

※3 当時「田子浦」は広く清水湊より東の一帯を指していました。 (銭湯の壁画は一時期この画題ばかりだったそうですが、公衆浴場も最近はめっきり減りました )





【参考】
富岡鉄斎筆 富岳三保山水図 絹本彩色 41.5×31.8
(自画賛「仰之彌高」/鉄斎85歳;1922年頃か) 18006  
富士の晴れ姿 (文晁)_e0259194_10533365.jpg
山頂付近の最大傾斜部を延長してた頂角は、約60度と極端な鋭角(実物の半分程度の角度)。
富士山が、突出して高い事を、それで強調したかったのでしょうか。
(見たままに描いた画を、正面で無く、斜め脇の方向から眺めると、この様に誇張した形に見える事もある様ですが・・)










by Ru_p | 2013-06-24 19:32 | アート・コレクション | Comments(0)


妄想猫の気まぐれ記(ジユウビョウドウ)


by Ru_p

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