フォント

蒹葭堂の画

木村蒹葭堂筆 墨蘭図 11027
e0259194_1395031.jpg

この花は中国産シンビジウム属の蘭科植物で一茎多花性なので、中国では「蕙(ケイ)」と呼ばれていた様で、おそらくは有香品種の株であったと思われます。
〈1891年に中国で発行された『蘭蕙同心録』という蘭に関する書物では、一茎多花の蘭ですと特に「蕙」と呼び、一茎一花の「蘭」とは殊更区別されていた様ですが、どちらの蘭もよく似た葉の蘭科植物ですので、花が咲いてない時季の区別は難しいです)

今の日本でも自生の一茎多花の「蕙」を見掛ける事はありますが、この画の蘭と似た雰囲気の株では一茎一花が多く、18世紀頃の日本にこんな雰囲気の蕙の自生が在ったのかどうかは、疑問です。
殆どの古い中国の墨蘭図では、一茎多花の「蕙」の方が描かれていますので、おそらくは、それ等を摸写したものかと考えられます。

この画の様に水墨で描いた蘭を墨蘭といい、墨竹・墨梅とともに北宋末の文人が始めたもので、良い香りを発する蘭は、優れた人徳の喩えにも用いられたのだそうです。また、東洋蘭の鑑賞ポイントは、古くから花よりも葉の優美な曲線の面白さにあるとも言われて来ました。
江戸時代の日本では、蘭の画は大陸渡来の墨蘭図を、筆遣いの練習のために写す事が殆どだったはずで、この「蕙」の実物を愛でる機会はまだ少なかったと考えられます。

蒹葭堂は無類の蒐集家であったらしく、書画・骨董・書籍・地図・鉱物標本・動植物標本・器物などの大コレクターとして、中国・朝鮮にまでもその名を馳せていました。
蒹葭堂ならばそれを取り寄せて間近に見て写生する事も可能だったのかも知れませんが、それならば、もっと標本的で写実性の高い画をも残していた事でしょう。

蒹葭堂は好奇心旺盛で、多趣味で、並外れた博学多識で、画も書も上手な「日本の文人」であり「スーパー博物学者だったので、その知識や収蔵品を目当てに始終遠方から様々な文化人達が彼の元を訪れていたそうです。
その幅広い交友関係は、『蒹葭堂日記』と呼ばれる彼自身の記録により、延べ9万人にも上ったという来訪者の数からも伺うことが出来ます。(近年「知の巨人」と評される事が多くなったそうですがその知識欲は、鎖国中の江戸時代にあっては、まさに「驚きの知の超人」とでも呼ぶべきか)

蒹葭堂はこんな蘭図以外にも、文人画風山水画でもそれらしい空想表現をしていますし、博物標本等のスケッチを見ると、厳密な観察眼と緻密な表現力をも持っていたこともわかります。更に、書を見ても、状況に応じて多くの書体や筆致を使い分ける事が出来ていたようで、画風も書風(?)も、幅広い器用さを持ち合わせていたように見えます。この事が多くの層の人達と上手に付き合うことが出来た才能であり秘訣だったのかも知れません。

蒹葭堂には、画の師が何人かいましたが、13歳頃からの南画の師だった池大雅も下のような蘭の画を残していますので、見比べて下さい。

池大雅筆 墨蘭図 18004
e0259194_06472753.jpg



蒹葭堂も大雅も、蘭の葉や花の魅力を良く掴んで描いている上手な画で、描き方も似ています。

蘭の趣味者としての私の個人的な花の好みを言えば、大雅の株の方が、花同士の間隔が広く見えるので好きです。
蒹葭堂の株も、自然界では在りそうですが、花の大きさに対して間隔が少し狭く見えるので気になります。

本物の文人ならば、その様な細かい部分を見ずに、伸び伸びとして揺れる葉のリズム感を、画からも楽しむべきなのでしょうが・・・










[PR]
by Ru_p | 2012-12-14 12:47 | アート・コレクション | Comments(0)


妄想猫の起末具連記


by Ru_p

S M T W T F S
1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30

最新の記事

カミナリ嫌い! (春信)
at 2018-11-18 15:06
ツルだらけ (芦雪)
at 2018-10-08 11:22
微笑みの石仏たち(甲斐の棒道)
at 2018-08-10 19:16
夏の風物詩 (鳥文齋栄之)
at 2018-08-01 07:26
ウチョウラン属 咲きそい
at 2018-06-22 19:51
仙厓の達磨?
at 2018-05-27 14:39
ウチョウラン始まり
at 2018-05-21 15:09
白隠の禅画(の4)
at 2018-05-07 19:55
月の天女
at 2018-03-22 12:15
白隠の禅画(の3)
at 2018-03-10 17:20
富士山を見なかった?(芦雪)
at 2017-10-28 13:27
『猫』 を躾ける人? (文晁)
at 2017-10-28 10:42
恋する・・・? (芦雪)
at 2017-10-14 00:08
憧れだった蕪村?(芦雪)
at 2017-10-01 06:41
江戸でもダンス(の2)
at 2017-09-26 00:06
大文字焼き?(芦雪)
at 2017-07-21 20:05
古今集の古筆(その2:素性法師)
at 2017-06-23 20:14
伝説の仙人 (芦雪の1)
at 2017-06-02 18:03
巣作り?
at 2017-05-31 07:25
旅の 常備品
at 2017-05-06 15:46

記事ランキング

タグ

(35)
(22)
(22)
(14)
(13)
(13)
(12)
(12)
(10)
(8)
(7)
(7)
(7)
(6)
(6)
(6)
(6)
(6)
(5)
(5)
(5)
(5)
(5)
(5)
(5)
(4)
(4)
(4)
(4)
(4)
(4)
(4)
(4)
(4)
(3)
(3)
(3)
(3)
(3)
(3)
(3)
(3)
(3)
(3)
(3)
(3)
(3)
(3)
(2)
(2)
(2)
(2)
(2)
(2)
(2)
(2)
(2)
(2)
(2)
(2)

以前の記事

2018年 11月
2018年 10月
2018年 08月
2018年 06月
2018年 05月
2018年 03月
2017年 10月
2017年 09月
2017年 07月
2017年 06月
2017年 05月
2017年 04月
2017年 03月
2016年 06月
2016年 05月
2016年 04月
2016年 03月
2016年 02月
2016年 01月
2015年 12月
2015年 11月
2015年 09月
2015年 08月
2015年 07月
2015年 06月
2015年 05月
2015年 03月
2015年 02月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 10月
2014年 08月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 04月
2014年 03月
2014年 01月
2013年 10月
2013年 06月
2013年 05月
2013年 04月
2013年 03月
2013年 02月
2013年 01月
2012年 12月
2012年 11月
2012年 10月
2012年 09月
2012年 08月
2012年 07月
2012年 06月
2012年 05月
2012年 04月
2012年 03月
2012年 02月

ブログジャンル

カテゴリ

東洋蘭
にゃんこ
アート・コレクション
その他