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大文字焼き?(蘆雪)

大文字送り火の図 長沢芦雪筆(蘆雪写)     17011  紙本:48×111

年中行事で、盆送りの風景(「夏の風物詩」)の様です。
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画の右上部分には、山の中腹で、大の字形に配した薪(火床)に、松明で上方から順次点火している様子が描かれています。
(京都では歴史的背景もあり「大文字焼き」とは呼ばれないそうです )

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盆送りは旧暦7月中旬、夕刻に行われていた行事なので、全体に暗く描かれていますが、現代の大文字送り(毎年8月16日20時に点火)よりは、少し早い時刻の様です。

盆の送り火での薪は、一般的には、すぐに火が点き、すぐに燃え尽きる麻がらが燃やされています。この画の場合でも、細く真っ直ぐな(麻がらの様に見える)薪が火床毎に積まれている様です。画だけでは厳密な材質の判別は出来ませんが、予め乾燥させておいた薪を、参加者達が分担して持ち寄り設置したのでしょう(現代の京都五山の送り火では、もう少し太い材の護摩木が使われているので、その分で燃焼の時間が延びそう )。

高い所の炎と煙は、強い風(南から?)に煽られたらしく、殆ど水平に棚引いて見えますので、火事が心配になる勢いなのですが、この後にはきっと参加者達によって、確実に残り火の始末が行われていたのでしょう。

描かれている人物は、何れも屈強そうな男ばかりで、数えてみると41人。髪型や衣服、それに表情から、近隣に住む顔見知りの仲間同士の様です(中には裸足で参加している人もいます)。
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【長沢蘆雪の、若い頃の画?】

更に一人づつを見比べると、体型・姿勢・顔つき・服装・持ち物など、執拗な観察に基づき、意図的に「描き分け」を試みた(極端なほど別々の個性を強調)とも感じ取れます。

登場人物の表現方法では、職業絵師(後年の蘆雪の場合にも)であれば、主要な人物の表情には特に重点を置き、そうでもない存在には味付けを省略する表現が多いのですが、この画の場合には、雲や樹木などと省略に使えそうな要素が多いのに、それ等を要領よく使おうとする逃げが見えません。ある意味では、敢えて「十人十色」又は「百人百様」への描き分け表現に挑戦した、かの様です(師匠の指導だったのか?)。

ここでの、人物を妥協せずに描き込みきろうとする姿勢には、まるで師(応挙)の作品で「七難七福図巻(1768年制作:重要文化財)」などにも見られる様な生真面目なまでの拘り(後年の蘆雪なら、もっと気楽そうな・・)が感じられます。

長沢蘆雪(1754~1799)の落款で、楷書での署名の例は、主に天明年間の頃(二十代半ばから三十代始め頃まで)に使われていたのですが、ここの署名には、その最も初期の作品として知られる「東山名所風俗図(1778年制作)」にも近い雰囲気(真摯なぎごちなさ)が感じられます。

また、この画の本紙に使われている紙ですが、きわめて薄くて繊維の短い紙(画宣紙?)で、小さく半端なサイズの紙が十数枚継ぎ合わされ、裏打ちで整えた状態にして使われている様です。それも、比較的不器用そうな継ぎ跡なので、場合によっては、絵師として世間に認められる前の蘆雪(二十代半ば頃?)が、自から準備を試みた、貧しい修業時代の画材だったのかも知れません。
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(用紙の継ぎ目部分が粗雑;明暗を調整して拡大)




修業時代の蘆雪が通っていた京都四条の師(応挙)の住まいは、大文字の送りが行われた京都東山の如意ヶ嶽にも近いので、その山で描いた下絵を基に、この画が描かれたのかも知れないと考えれば、つじつまは合いそうです。




ところで、この画(掛け軸)の軸先には、仏表具の時に使われる金物(金属製品)が付いていますので、仏画として表具に仕立てられた様です。
盆送りは、仏教関連の宗教行事(現在では、地元の保存会の方々等によって運営されている様ですが)でもあるので、仏画として扱われていたとしても、不自然とは言えないでしょう。
ただ、画(本紙)の周辺部を二分(約6ミリ)以上の幅で(裂が)覆い隠す様な、粗雑な表装が行われているので、長い間所有者にあまり関心(興味)を持たれて来なかった可能性はあります。
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なぜ仏表具の軸先に金物が使われる様になったのか、と言うことの合理的な説明は殆ど語られていない様ですが、牙や骨などの殺生(宗派に依っては、戒律で禁ずる)で得られる材料を避ける(表具師の拡大解釈?)ためだったのかもしれません。



実際にこの画を蘆雪が描いたという客観的な立証は、今更誰にも出来ないのですが、この様に真面目に写された画なので、少なくとも江戸中期の風俗を知る上での希少な資料(大文字送り関する歴史的資料は、残念なことに、多くは残ってないのだそうです)とは言えるでしょう。




一般的に、有名な絵描きの初期の作品には、「若描き」と呼ばれて、あまり高くは評価をされない傾向がありますが、長沢蘆雪の場合には、殆どの作品で制作時期の情報が残されていないことから、逆にその謎への関心が高まります。
(物理的年代測定はしていませんし、その予定もありませんが、個人的には・・・)











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by Ru_p | 2017-07-21 20:05 | アート・コレクション | Comments(0)


妄想猫の起末具連記


by Ru_p

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