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歌麿に 三代目・・・?

榮文筆  柳下美人図 (南木山人画賛)  15014 39x89
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この画の作者 栄文(えいぶん)は、「栄文歌麿」または「別人歌麿」とも呼ばれていましたが、世界的に有名だった(初代の)喜多川歌麿とは、別の人です。

作例は少なくて、文化年間〈1804~1818年〉に描かれた僅か数点の肉筆浮世絵が知られていただけだったそうです。
(・・・となると、この画は新発見なのかも知れません)

筆致は初代歌麿や二代目歌麿とは幾らか異なります(この画の場合には、当初の師匠だった鳥文齋栄之の影響と思われる「品格」が幾らか感じられます)。
描いた美人画のレベルは高く、歌麿にも迫るとの評判もあったそうです。ただ、作品の絶対数が少なかった事もあり、必ずしも、十分な人気は得られなかった様で、彼の記録は殆ど残っていません。(もしも、木版画を手掛けるなど、上手に宣伝活動をしていれば、更に高い評価も得られていたことでしょうに)

作画時期が特定出来ないのですが、彼の作品の中には、落款に「歌麿」(又はそれに類した)の署名をした謎の作品が、何点かあるようです。
初代歌麿をそっくりコピーをした訳ではなく、独自の印章を使うなどの自己主張も見られますので、必ずしも真剣に「喜多川歌麿」の偽物作品を描こうとしたとは、不自然で考えにくいのです。
初代歌麿(~1806)又は二代目歌麿と何らかの接点が有り、その門人となったとか、三代目を襲名していたと考えれば納得出来そうなのですが、残念ながらそれを裏付ける資料は見付かっていません。

この人物の筆と思われる画の落款には、「栄文筆」「一掬斎(いっきくさい)栄文」「栄文菅原利信筆」「鳥文斎一流 一掬斎栄文筆」「歌麿筆」「喜多川主人筆」等と、無署名も含めて複数の例が有ります。
ところが、それらの印章に関しては「自成弌家」「拂袖」等の共通する物が使い回される例が見られたので、同一人物の作と判断(推定)されている様です。

資料不足の為にか、あまり掘り下げた研究はされていなかったのかも知れません。
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画像の見られる作品例では、

二女図」(東京国立博物館所蔵)には、上の画の落款と酷似の「自成弌家」の印章が見られますが、署名は無い様です。
ちろり美人図」(熊本県立美術館所蔵)には、落款に「喜多川主人哥麿」と記し、「拂袖」の朱文長方印を捺してある様です。
また、
「肉筆浮世絵 美人画集成Ⅰ」(毎日新聞社刊) にも下記3例の画像掲載があります。
「矢場の女図」  (署名:哥麿筆)
「夕涼み美人図」 (署名:喜多川主人筆)
「若衆と美人図」 (署名:無署名)



栄文は当初、喜多川歌麿とは、人気を二分するライバル関係にあった鳥文斎栄之の門人だったそうです。その栄之の門人達の多くが「鳥〇齋」と言う様に名の頭に「鳥」の文字を置いていた中で、一掬斎(「一掬」には「少しの期間」の意味が有るらしい)と言う変わった字を落款頭に使っていました。
落款での「一掬斎」や「自成弌家」の印章は、例えば、栄之とは決別を果たした事を意味するものだったのでしょうか?
「歌麿筆」や「喜多川主人筆」などと、敢えて波風を立てる様に挑戦的に、師匠のライバルだった一派の名前を使ったのは、三代目を引き継いだ事を、主張したかったからでしょうか?


なやましくも、永遠の謎に・・・・









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by Ru_p | 2015-08-29 22:37 | アート・コレクション | Comments(0)

御神木だった「首尾の松」

鳥文齋栄之筆 「首尾の松」(絹本肉筆浮世絵/太田蜀山人画賛) 15005 29x83
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紅い楓と、東の空に浮かぶ月、群れで飛ぶ雁とを併せて、静かに暮れるもの寂しい秋の情景を演出している様に見えます。(この月ですと、ほぼ満月で雲が少し掛かった状況かと思われます)

画賛には
夕汐に 月の桂の 棹さして さてよい首尾の 松をみるかな
とありますので、これは「首尾の松」と呼ばれて浅草の新吉原にもほど近い江戸名所の画だった様です。(画賛にある「月の桂」は、中国の古い伝説からの引用で、月の影又は月の光を表した言葉と思われます~「桂」と「松」との対比も狙って・・)

画の作者は、鳥文斎栄之(ちょうぶんさい えいし/本名:細田時富/1756~1829年)という旗本出身の絵師(人気の浮世絵師)の様です。
上の画賛を書き加えたのは、御家人でありながら狂歌師でもあり、非常に多くの書画に画賛を書き加えて残した人として有名な蜀山人(本名:大田 南畝/1749~1823年の別号)の様で、栄之とは交友が深かった様です。
蜀山人が、文化5年(西暦1808年)頃、「首尾の松に月出て舟ある画」にこれとほほ同じ文の画賛を書いたという記録(出典:千紅万紫)が残されていますので、それがこの画の事である可能性が高そうです。
西暦1808年の少し前(※)に描かれたことになれば、葛飾北斎が狂歌絵本「絵本隅田川両岸一覧」の中で描いている「首尾松の鉤船」の図が、ほぼ同じ頃の同じ場所の風景の様です。また、広重の「名所江戸百景」の木版画は、それよりも約50年後の同じ場所の風景という事になりそうです。


ここの主役となる松は「御蔵神木首尾の松」とも呼ばれていたそうですので、画面左下に見える小さな屋根が、その神木を祀った祠の様です。

首尾の松は、安永年間の強風災害のために、倒れてしまい、その後幾度も手当が試みられたそうです。画をよく見ると、確かに傾き過ぎて懸崖で川に跳ね出している様に見えますので、その話とも一致しています。
支柱の内で古くて朽ちたような何本かは短く描かれていますので、霊験が有ると信じられていたこの松は、災害の後も長い間人々に大切に守られ続けていたのだと思われます。

安永9年8月25日(西暦1779年10月4日)、日本各地に疲害をもたらした台風が、この辺も通った様で、神田川も氾濫・浸水したという記録が残っているそうです。
当時の松は、残念ながら江戸末期の安政年間(1854~1859)には枯れてしまっていたそうで、現在見られる松は後継の何代目かになる別物なのだそうです。
ここの場所は、現在の住居表示では台東区蔵前1丁目の隅田川西岸付近に当たり、上部に蔵前橋が掛かっていますが、江戸時代末期の「江戸切絵図」と見比べると、当時幕府の米倉庫「御蔵」があり、そこに隅田川から運搬舟を引き込む為の堀が8本あり、その4~5番目の間の突堤の先に、この松が位置していた様です。
ちなみに、川の対岸右側に見える施設は、その当時は、丹後宮津藩の下屋敷(現在は旧安田庭園:藩主は松平姓を与えられて名乗りましたが、元は本条氏で、地名の『本所』の語源なのだそうです)の辺りですので、その一部かとも思われます(そこの右には、『本所の七不思議』の「椎の木屋敷」とも呼ばれた名所の肥前国平戸藩松浦家下屋敷もあった様です)。


当時ここの少し上流には「御蔵(おくら)の渡し」とも呼ばれた渡し場もあり、舟で新吉原(この川の上流で画面左側方向に約2キロ)へ向かう客達の多くがここを通って目印としていたので、蜀山人の画賛にも有る様に、その夜の好い首尾の結末を見ることをこの御神木に掛けて祈願していたことでしょう。
松の向こうの川面に浮かぶ猪牙舟(ちょきぶね)にはそんな客達が乗っていたのかも知れませんね。

ということは、これって「神仏画」でもあり・・??



祠の屋根の上の千木(ちぎ;神社建築の屋根のにある部材)の先端部分を拡大すると、何となく「内削ぎ」と呼ばれる水平の切断形に描かれている様に見えます。
そうだとすると、ここの祠は「女神」を祀ったものになりそうです。(男神の祠の屋根にある千木は、先端の切断面が垂直の向き)
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果たして、吉原での「好い首尾」を祈願するのに、女性の神様の方がご利益があったということなのでしょうか?



まさか、そんな身勝手な願い事が重荷になって、枯れてしまった・・・?








※栄之は寛政12年(1800年)に、御物に収められた作品の中で、「隅田川図巻」として、この首尾の松をも含めた風景画を描いていたそうで、それが栄之の同類作の中では最も初期の作品と考えられているそうです。(出光コレクション「肉筆浮世絵」解説文より)。その説に依れば、上の画の制作時期は、1801~(1808)年の制作だった様です。
ちなみに、上の画とほぼ同じ構図構成の画は「バーク・コレクション」にもあり、同じく蜀山人の画賛が書かれていますが、微妙に風情が異なるのが面白いです。


ところで、それ等を描くために使った下絵の制作年代(すなわち、この画の情景が実際に見られた時期)は何時だったのでしょうね?。

長い歴史を持つ松なので、同じテーマの画は他の作者に多いのですが、それぞれの制作年代の違いによって、松の表情や背景の様子が微妙に違っていますので。








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by Ru_p | 2015-08-18 22:45 | アート・コレクション | Comments(0)


妄想猫の起末具連記


by Ru_p

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