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憧れだった蕪村?(芦雪)

まだ駆け出しで修業中だった長沢芦雪(1754-1799/7/10)が、「平安人物志」(近世京都文化人の名や住所を集成した出版物)天明二年版の画家部門に、掲載されたのが29歳(満28歳頃)で、彼には初めての事でした。

「平安人物志」は、芦雪の存命中では、明和五年(1768)の第一版に始まり、二版目の安永四年(1775)での改訂を経て、その天明二年版(1782年7月)で三度目の出版でした。(その次は30年も後の文化十年版で、芦雪の没後14年目)

芦雪の師匠の円山応挙は、既に画家部門の筆頭に名を連ねていましたので、芦雪にとって自分の名が平安人物志に載った(絵師として、世間から認められた)事は、さぞや嬉しい出来事だったと思われます。

天明二年版の画家部門を見ると、筆頭の応挙に次いで、伊藤若冲・与謝蕪村 等の名がありました。
その頃の与謝蕪村(1716-1784/1/17)は、芦雪の住居から約1キロの近距離に住んでいましたが、亡くなる1年半位前(数え年67歳)で、重度の下痢症を患って衰弱していた様です。

当時の芦雪にとって蕪村は同業者ですが、自分より遙かに名前の売れた先輩でしたから、老い衰えたとはいえ、その存在には大きな関心を持ち、顔や姿も当然見知っていたと考えられます。

長沢芦雪筆 空を見上げる歌人の図 紙本 29×128.5  17007_R35
憧れだった蕪村?(芦雪)_e0259194_23062235.jpg
上の画や落款の署名は、芦雪が最晩年(蕪村が没した10年以上後の寛政後期)に使っていた書体(筆致)の様です。
とすればこの画は、芦雪が見た最晩年の蕪村の姿を、何らかの理由で、十数年後に回想して描いたものかと思われます。

この画の場面は、蕪村が空を飛ぶ鳥(カラス?)に、何らかの想い(哀愁?)を感じて眺めている姿、と芦雪の目には映ったのでしょう。

場合によっては、カラスに似た、(※)八哥鳥に見えたのかも知れません。

(当時日本の絵師達は、中国の宮廷絵師として1731年から約二年間長崎に滞在した沈南蘋の、花鳥図の技法に大きく影響を受けていて、八哥鳥にも特に強い関心を持ち、飼育する人も多くいたそうです)

※ 八哥鳥:ハッカチョウ(別名=叭叭鳥:ハハチョウ);スズメ目ムクドリ科;日本では殆ど見られませんでしたが、大陸南部に多く生息していて、声が美しく、人の言葉も真似するらしく、中国画の題材には古くから吉祥鳥として頻繁に扱われて来ました。


参考:芦雪にとって、応挙の同門で何かと因縁深かった松村呉春(1752-1811)も、後に蕪村を回想して、没後18年目の命日の為に、肖像画を描き残しています。  
憧れだった蕪村?(芦雪)_e0259194_14492688.jpg

呉春筆 蕪村画像 享和元年(1801)
(MIHO MUSEUM 監修の展示会画集より)


蕪村存命中最後の十年間、呉春は画と俳諧で蕪村の弟子でしたし、その最期も看取っていました。





下の八哥鳥の画は、芦雪が沈南蘋(中国清時代の宮廷画家)の画を基にした摸写という意味の「倣南蘋筆意」の文字が記されています。

写真も印刷も普及していない江戸時代以前の日本では、必ずしも絵師にオリジナリティーが求められず、摸写であっても価値を評価される時代でした。(仏画の場合などは、当然全てが過去の仏典からの引用又は複写でしたので、その様な文化的背景も関係した事でしょう)
憧れだった蕪村?(芦雪)_e0259194_23063409.jpg
長沢芦雪筆 岩上の八哥鳥図 「倣陳南蘋筆意」
 紙本淡彩色 24.3×88.617012_R34

天明年間の初め頃(又はその前)の若描きで、文字や描線に、よく言えば初々しさはありますが、どことなく稚拙で、まだ芦雪らしい自信や勢いが感じられません。

その頃の多くの日本の絵師達と同様に、芦雪も練習のために中国の画(として沈南蘋の八哥鳥)を写したのでしょうが、虎図と同様で実物を見る機会が殆どない為、想像に頼った解釈で描かざるを得ない面があったのかも知れません。

この八哥鳥図での、羽の白っぽい色の部分の表現は、墨をわざと塗り残した様な描写で、蕪村の晩年の「鳶・鴉図(重文)」の雪の部分の描写(塗り残しの技法)に多少似ている様にも見えます。また、鳥の表情は妙に『アニメチック』(で擬人化されたかの様)に感じられます。

場合によっては、若くて未熟だった芦雪なりに、蕪村らの作品からも、何かしらの影響を受けて描いていたのかも知れません。



芦雪には、実在の生き物を描いたと思われる作品でも(十分観察しているはずなのに)、あたかも人の様に感情を持つ(?)のかと感じられる画が多々あり、そこが魅力でもあります。

この芦雪や蕪村(と更に仙厓も)の描く生き物には、「カワイイ」と感じてしまう画が多く、個人的に大好きな絵師たちです。
(彼らの個性や人柄からなのかも知れませんが、生き物への優しさ・慈しみが感じられ、癒やされます)



ついでですが、こちらの画は、芦雪が実物を見て写したと思われます。
(落款署名は、晩年のものと思われます)

横顔での嘴と額との角度の差が小さいのでハシブトガラスでは無さそうですし、嘴が太く短かめなので、ハシボソガラスでも無さそうです。
嘴の付け根上部には、僅かながら飾り毛風の毛羽立ちが見え、また、尾の付近に白っぽい部分が見えますので、八哥鳥なのでしょう。
(羽根を広げれば、この部分が『八の字型』に見えるらしいのですが)



憧れだった蕪村?(芦雪)_e0259194_14573140.jpg
長澤芦雪筆 枯れ枝の八哥鳥図 
墨画淡彩 33.5*106 23025_R70

元々日本では生息していませんでしたが、江戸時代には飼育目的で移入される様になりましたので、芦雪は、そんな鳥を写したのでしょう。

今日の日本では、カゴから逃げ出した思われるこの鳥が徐々に殖えて、各地で頻繁に観察される様になって来ているそうです。


























ゆるかわゆい
by Ru_p | 2017-10-01 06:41 | アート・コレクション | Comments(0)


妄想猫の気まぐれ記(ジユウビョウドウ)


by Ru_p

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