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魚籃観音 (の3)

大きな鯉に乗って、サーファーのように水の上を進む姿は、スピード感があり、とても面白い構図です。

魚籃観音 (の3)_e0259194_05022769.jpg

魚濫観世音図 傳 北斎筆   50.8x137.2  07007

本来の「魚籃観音(ぎょらんかんのん)」の「籃(らん)」の字をサンズイの「濫」に置き換えた「題名」ですが、この表記が、江戸時代の有名な北斎漫画の中の画と同じだったのです。
文字が紛らわしいためか、こんな間違い(又は意図的?)が比較的古く(江戸後期)から有ったという事なのでしょう。

ところで、この観音(観世音・観自在)菩薩は髭の有る男性の顔に描かれています。
「観音菩薩」は本来は男性の設定でしたので、髭は正しい表現なのですが、中国の唐時代以降は女性とする表現が増えたそうです。魚籃観音の由来の話では女性(美女)に化身したはずだったので、ここでも絵師の解釈に間違い(これも意図的?)が有った様です。

仏画なのでか、落款はありませんが「傳 北斎筆」と添え書き(鑑定書)にはありましたので、場合によっては北斎晩年の肉筆画だったのかも知れません。(今さら誰も真筆の立証は出来ないのでしょうが、北斎は敬虔な仏教徒でしたので、当然無落款の仏画を数多く残していました)

下に参考として、北斎漫画での「魚濫観世音」の画像を載せますが、奇抜な構図は確かに似ていると言えそうです。

【参考】 「魚濫観世音図」(『北斎漫画』 十三編の木版画より)
魚籃観音 (の3)_e0259194_0262778.jpg




『ジャポニズム』 の影響で、北斎漫画のこの図柄の鯉の部分を、アールヌーボーの代表的作家のエミール・ガレが模倣し、自身の作品(花器「鯉」1878年)のモチーフとして使っていたことは、とても有名な話です。

【参考】 ( ↓ サントリー美術館のガレ展の画像より転用/比較のため鏡像に左右反転 )魚籃観音 (の3)_e0259194_9254554.jpg










 この画の面白さには、縮れた毛・垂髪・衣・枝などが画面右方向に大きく流れる様に描くことから、体が逆に画面左方向へすばやくターンした瞬間を捉えたと示そうとしている事。それと、顔は正面の高さから見た様なのに、足元や鯉は斜め上方向から見下ろした様に描くなど、視覚的なトリック(見る者の視線が同時には顔と足元を注視ることが出来ないため)を応用して観音菩薩や鯉の存在感を強調しようとしている事など、絵師が視覚効果を意図的に操ろうとした企みが感られる事にあります。また、鯉の上部が水から出ている事を示す描写方法として、水中の体の一部を敢えて描かない(水面と尾の付近)ことで水の存在を表すことなど、多くの工夫を駆使した跡が感じられます。画のテーマにしても、「魚籃観音」とはしましたが、観音菩薩が手にしている枝が柳(楊:少し長過ぎ?※)だとすれば、「楊柳観音」として描いた可能性も十分に考えられ、髭の存在も納得できます。このように深い謎を秘めたことでも、魅力的な(見る人の心理でも見え方の変わる)画なのだと思われます。

(※葉が長すぎるので、もしも、菖蒲の葉だとすれば、鬼除け・魔除けの意味があると言われる「魚籃観音」なのでしょう。更に、鯉と菖蒲とで端午の節句との関連も生じそう;北斎なら、鍾馗の画も多く残しましたので・・・ )





魚籃観音 (の3)_e0259194_13133430.jpg

上の魚濫観音の画に付いていた軸先ですが『卍』が彫られています。
「卍」は、絵師の落款としてはとても洒落た記号だと思いますが、右卍か左卍に関わらず、ほとんどのヨーロッパ諸国では法律によって使用が禁止されているそうです。特にドイツでは「ナチス」との因縁が深く、公の場で使用すると逮捕されるのだそうです。

・・・・・なんとも不運な北斎の画


    



















              
by Ru_p | 2013-02-14 21:24 | アート・コレクション | Comments(0)


妄想猫の気まぐれ記(ジユウビョウドウ)


by Ru_p

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